The marketing for niche restaurants

ニッチな飲食店の戦略:お客さまはだれか

 ニッチな飲食店は「ニッチ」を決めると必然的にお客さまが決まります。お客さまは顧客といったりターゲットといったりします。
 
 経営学者ドラッカーは著書『マネジメント‐基本と原則』のなかで「企業の目的はひとつしかない。それは顧客の創造である」と断言しています。

 また『経営者に贈る5つの質問』のなかでも2番目の質問として「われわれの顧客は誰か?」と問いかけています。ドラッカーは何度も「顧客はだれか?」と尋ねてきます。お客さまがわかれば、するべきことがわかってくるからです。

 お客さまは、いったいだれなのか。マーケティングでもお客さまについて考えることが最も大切な仕事です。そのお客さまはどんな人で、どんな行動をするのか。お客さまを確認し、お客さまについて詳しく知っておく必要があります。

1.そのニッチが好きな人。しかしお客さまは近くにいない!

 ニッチな飲食店のお客さまは「ニッチ」が好きな人です。ニッチなので、当然そんな人は珍しい人になります。大問題です。近くにお客さまがいないのです。
   
 ほとんどの飲食店はお客さまが近所から来ます。オフィス街だったり住宅街だったりです。しかしニッチな飲食店に近所の人はなかなか来ません。興味がないからです。店のとなり住人でさえ「店のカンバンは見ますけどねぇ」ぐらいでしょう。
   
 そうなると広い地域からニッチが好きなお客さまに少しずつ来てもらう必要があります。商圏が広いとも言います。かなり遠くからも来ていただかないと間に合いません。三ツ星レストランのようなものです。したがって、お店の場所は東京のような大都市が適しています。
   
 東京にたくさんの人がいても、それでも名もなきニッチな飲食店にお客さまを集めるのは難題です。店に来てもらえそうなお客さまはだれかを考えることが大切です。
   
 お客さまはだれか、どこにいるのか、なにを考えているか、なにが好きなのか。「お客さまはだれ?」を考えること。マーケティングの重要な仕事。ニッチな飲食店では特別に重要な仕事です。

2.もうひとつの顧客層。2.5%のイノベーター 

 ニッチな飲食店の「ニッチ」が好きな人以外にも、お客さまになりそうな人がいます。イノベーターです。
 
 新しい製品が発表されると真っ先にお店に駆けつける人。その人がイノベーターです。革新者とも言います。「あぁ、iPhoneを真っ先に買ったあの人だ」と思い当たることもあると思います。

 イノベーターは社会学者のエベレット・ロジャーズが著書『イノベーションの普及』のなかで詳しく説明しています。エベレット・ロジャーズは新製品(イノベーション製品)とそれを受け入れた人たちとその分布について研究し紹介しています。下図です。
   
 ロジャーズは全体の約2.5%の人がイノベーターだとしています。この人たちは冒険好きであり、危険や失敗にも覚悟があります。「新しいものはまず試してみる」が心情の人たちです。
  
 このイノベーターの様子を冷静に観察しながら、どうするかを決めるのが初期採用者。13.5%の人たちです。この人たちはオピニオン・リーダーでもあります。
   
 そして初期採用者から、34%の初期多数派へと広がります。ここまでで、世の中の約半分です。そのあとに34%の後期多数派まで広がり、社会にほぼ普及することになります。
   
 しかしどうしても受け入れない人もでてきます。ラガード(遅滞採用者)などと言います。「スマホはどうしても使いたくない。ガラケイがいい」という人もいますよね。
   
一般的にイノベーターは新しい技術や機器などに興味を持つ人を指す場合も多いようです。新しい飲食や珍しい飲食店にもすぐとびつきます。 
  
ニッチな飲食店のお客さまには、ニッチが好きな人以外に、この2.5%のイノベーターも多いのではないかと思います。

3.いつも新規顧客。お客さまは一度しか来ない?

 ニッチな飲食店のニッチが好きな人もイノベーターも、店に一度しか来ないのかもしれません。つまりいつも新規のお客さまばかりということです。

一般的な飲食店では、一定数の既存のお客さま(固定客)が中心です。そこに、はじめてのお客さま(新規顧客)がときどき来店するという構造になっています。なので、お客さまを増やすには「固定客を増やせ」がお決まりです。 
    
 飲食店だけでなく固定客は大切にされます。パレートの法則というのがあります。優良な2割のお客さまが8割の売上をつくるといわれています。
  
一度来たら、次もその次も来てほしい。ポイントカードにマイレージ…。固定客づくりはビジネスの基本です。

 ところがニッチな飲食店の場合は少し様子が違います。お客さまは少しの常連とたくさんの一見さん、つまり一回かぎりのお客さまというのが特徴です。
 
 ニッチな飲食店でも固定客が増えればいいのですが、残念ながらそうはいきません。なにしろニッチな飲食店。ニッチに興味があっても、常連として広い東京の遠くから来られる人は多くありません。
 
 ましてやイノベーターとなると「お店に行った」経験が大切で、ニッチな体験が済むと「この店はもういい」と思うようです。「また来よう」となかなか思わないようです。

 「はじめてのお客さまが多い」は実感しています。以前サポートしているニッチな飲食店で来店者のアンケート調査をしました。8割近くが初めて来店のお客さまでした(調査数150)。同じ条件で一般飲食店の調査をしていないので比較できませんが、新規顧客が多い傾向だと思います。
  
 多くのお客さまが1回しか店に来ない。一般の飲食店なら大変な問題です。すぐに閉店がアタマに浮かんでしまいます。しかしニッチな飲食店の場合は、この傾向が継続します。
  
 サポートしているお店はオープンからすでに10年以上ですが新規顧客が多い状態が続いています。不思議な現象でもあります。23区に約1,000万人が住む東京だから可能なのかもしれません。

4.ニッチ好きのお客さまもイノベーターも興味はニッチな情報

 ニッチ好きのお客さまもイノベーターも特徴は情報感度がいいことです。ニッチに関する情報を求めていると思います。店への興味の源泉です。

 前述のアンケート調査で、お客さまがどんな情報で店にきたのか(来店経路)を調べた結果では、約50%が友人・知人からの口コミでした。その次が約25%ネットの検索でした。
   
 ニッチな飲食店にはお店に行かなければ体験できない価値があります。珍しい食材やはじめてのメニュー、変わったインテリアなどです。ニッチ好きやイノベーターにとっては興味のあるものばかりです。

 だれかにそれを伝えたい人たちもあります。ニッチな飲食店らしいニッチな情報でお客さまの「あ~、だれかに言いたい」を満足させる必要があります。

 ニッチが好きな人とイノベーター。ともにニッチに関する豊富な情報に興味があるはずです。詳しくは別のページでご紹介します。
  
  
まとめ:ニッチな飲食店に来るお客さまだれなのかよく考える必要があります。お客さまは限られています。ニッチが好きな人とイノベーター。ともにニッチな情報に興味があるはずです。

<参考文献>
P.F.ドラッカー/上田惇生訳『マネジメント‐基本と原則』ダイヤモンド社 2001
P.F.ドラッカー/上田惇生訳『経営者に贈る5つの質問』ダイヤモンド社 2017
エベレット・ロジャーズ/三藤利雄訳『イノベーションの普及』翔泳社 2018

2022年12月28日掲載 2024年6月19日改稿

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