The marketing for niche restaurants

ニッチな飲食店の戦略:「人」に光をあてる

 いまさらですが、世の中のあらゆることが「人」です。東アフリカで発見された二足歩行の猿人ルーシーさんも「人」。ケンタッキーフライドチキンのカーネル・サンダースさんも「人」。ニッチな飲食店も「人」もです。
  
 ニッチな飲食店は経営者やシェフがニッチについて重要な役割を果たしているはずです。その「人」に光をあてるべきです。

1.ニッチな飲食店の「人」に光をあてる理由

(1)店の「人」がわかれば安心する

 「その店にだれがいるのか」。ニッチな飲食店は少し特殊です。お客さまは変わったニッチな人がいるのかと少し心配になります。心配だと店に入るのにためらうことになります。

 実際に入るのをためらう店もあります。銀座の高級寿司店です。お金の問題だけでなく、絶対笑いそうもない寿司職人のオヤジさんが、白木のカウンターのむこうにいそうだからです。
    
 しかしお客さまには、それがいいようです。経営学者山内 裕の『「闘争」としてのサービス』では、高級寿司店のオヤジさんが笑顔で客に媚びるとサービスの低下を感じてしまうといっています。「怖いオヤジのいる高級寿司店に来た」と思いたいからのようです。
   
 つまり、店は「笑顔の人」が重要ではなく、実際にその店に「どんな人」がいるのかが大切ということです。

 ニッチな飲食店の「人」をお客さまに紹介しましょう。「個人情報」の開示が気になるかもしれません。でも公開にはお客さまを安心させるメリットがあります。
  
 さらに、どうせ公開するなら有名になったほうが圧倒的に有利です。もし気に入ってもらえれば、飲食店なので「会いに行けるアイドル」になります。

(2)「人」が語れば信頼性ができる

 ニッチな飲食店は情報(コンテンツ・マーケティング)が大切とお話ししました。その情報の信頼感ということでは、具体的に顔のわかる「人」から発信されるほうがいいはずです。

 「ケンタッキーフライドチキン」の店頭にはカーネル・サンダースの人形があります。こだわりのフライドチキンのつくり方(情報)はカーネル・サンダースが語ることでさらにおいしい味つけがされます。

 ニッチな飲食店ならばニッチな熱い情報があるはずです。その情報の根拠と発信源は明らかにするべきです。
 
 新聞の記事も最近、記者の署名記事も増えています。だれが書いたかの署名があると記事の内容が身近に感じます。店からの公式情報よりも実在の人物のからの情報のほうがお客さまの心に入っていきやすいはずです。

(3)「人」のストーリーは記憶に残る

 物語で伝えるストーリー・マーケティングは効果的な手法として知られています。伝えたいことが相手の記憶に残るからです。さらに、その話をだれかに伝えたくなるという効果があります。

 マーケティングの大家ジャック・トラウトは『独自性の発見』のなかで「最後は究極のブランド、つまり『人物のブランド化』で、多くは創業者が会社の差別化を100パーセント代表している」と語っています。創業者の苦労話は人を引きつけるということです。

 「ちゃんぽん」は清朝末期の中国から長崎にやってきた陳順平が考案しました。苦労して飲食店「四海樓(しかいろう)」を開店。やがて中国からの留学生の身元引受人にもなりました。
  
 陳順平はいつも空腹である彼らのために地元の手軽な食材で「ちゃんぽん」をつくりました。やがて「おいしい」と評判になり「四海樓」は人気店になりました。現在は大手外食チェーン店がこの味を全国に広め、だれもが知る料理となりました。
 
 「人」には必ず物語があります。ニッチな飲食店ならさらに興味深い話があるはずです。ストーリー・マーケティングとして語りましょう。

2.ニッチな飲食店の「人」を紹介する

(1)ニッチな飲食店の「人」の事例

 カンボジア料理店のシェフ。カンボジアから来た人としか思っていませんでしたが、話を聞いてみるとプノンペンの有名レストランでシェフとして働いていました。さらにNPOの料理学校で200人の生徒の先生(トレーナー)もやっていたとのこと。料理学校の活動は写真集になって出版されていました。ホームページにその話を掲載するとシェフ名指しのメディア取材が増えました。

 前述の「生姜料理 しょうが」。食べログでは「生姜の女神『森島土紀子』の生姜料理専門店」と説明しています。「生姜の女神」は生姜料理の専門家として何冊もの本を出版しています。
  
 マッシュルームトーキョーのオーナーも気さくな人柄で、テレビや雑誌によく登場してマッシュルームについてよく語っています。

(2)文章と写真を準備して紹介する

 プロフィールやその人のニッチに関する情報などを文章としてまとめておく必要があります。お気に入りの写真を用意しましょう。

文章にすると整理できます。人に話すときに上手に話せるようになります。またその「人」は当たり前と思っていることが、お客さまには「へぇ、スゴイ」と思うこともあります。本人の発言だけでなく、第三者が取材するとさらに内容が深まります。
 
紹介の準備ができたらホームページにも掲載しましょう。またメニューブックやショップカードなどに短く紹介するのもいいと思います。

まとめ:だれがニッチの情報をもっているか明らかにしたいですね。その「人」に光をあてましょう。その「人」とその人の情報をコンテンツとしてホームページや店のツールで紹介しましょう。ニッチの話を「人」が話すならお客さまの頭のなかで長く記憶に残ります。

<参考文献>
山内 裕『「闘争」としてのサービス 顧客インタラクションの研究』中央経済社 2015
ジャック・トラウト/吉田利子訳『独自性の発見‐消費者の心をつかむ唯一の方法』海と月社 2011
菊池武顕 『あのメニューが生まれた店』平凡社 2013

2022年12月28日掲載 2024年7月1日改稿

PAGETOP
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.
PAGE TOP