「ニッチな飲食店」の売上アップの事例をご紹介します。2019年からお手伝いしている飲食店様です。
2024年は2019年比で約150%の売上になりました。もちろん2020年からのコロナ禍では大幅な売上減少がありました。しかし2022年から回復、2023年、2024年と大きく売上を伸ばしました。
成功の要因はシェフ、マネージャー、スタッフの方の創意工夫と努力です。「独自の新メニュー」の導入が効果的でした。以下その経緯についてクライアントのカンボジア料理「バイヨン」様の了承をいただきご紹介します。
1.店舗の紹介:都内でも珍しいカンボジア料理「バイヨン」
東京・神楽坂に2012年にオープン。シェフはカンボジア出身のレスマイ氏(日本名は染谷真偉)。席数22の小さな店です。カンボジア料理店は都内に3店、全国でも10店ほどしかありません。「ニッチな飲食店」です。
カンボジア料理はたっぷりの野菜と多彩な調味料を使うのが特徴。またタイ料理のように辛くないので日本人にも親しみやすい味わいです。
2019年に先代オーナーからシェフのレスマイ氏がオーナーとして就任。当室もそこから本格的にマーケティング面での支援をはじめました。

2.売上アップ要因。「独自の新メニュー」。シェフとチームメンバーの創意工夫
調理技術が高くお客さまとのコミュニケーションが上手なシェフ。さらにシェフとチームを組む、経営面で技量の高いマネージャーと細やかなサービスに気配りするスタッフの存在が成功の要因です。
シェフとチームメンバーによる安定した店舗運営で、お客さまの満足度が高まったことによる成果だともいえます。
売上向上に大きく貢献したのが「独自の新メニュー」。独自開発のカンボジアスタイルのカクテル、カンボジア産のコーヒーやカンボジアブランドのジンの導入、カンボジア名物のカボチャプリンのアレンジ、カンボジア名産のコショウの販売など間断なくメニューに加えていきました。
これらによって「珍しいカンボジア料理を提供する店」だけではなく「いつもカンボジアらしいおいしさを提供する店」として認められたものと思います。
新メニューの導入は、「ニッチな飲食店」だけでなく、どんな店でも売上アップに大きな貢献があります。しかし「その店らしさ」を強化できるかどうかが重要であると考えます。

3.マーケティング施策。多面的なカンボジア情報の提供
マーケティング施策では多面的な情報の提供によって認知が拡大し、お客さまの来店につながっていると考えています。
(1)シェフの物語:ストーリー・マーケティング
シェフのレスマイ氏はカンボジアの有名店でのシェフ経験があり、またトレーナーとしての経歴もあります。さらにカンボジアの故郷、古都ウドンのことや来日してからの話など話題が豊富にあります。
これらの話をもとにWebサイト(ホームページ)、SNSや店のツールなどで記事として紹介しています。
言ってみればストーリー・マーケティングです。人に関する話はお客さまにも興味をもってもらえます。また店としての独自性(マーケティングとしての差別化)施策として有効であると思います。

(2)カンボジアの情報:コンテンツ・マーケティング
日本人にとってのカンボジアは「アンコール・ワットの国」。しかしそれ以上はあまり思い浮かびません。日本ではカンボジアの情報が少ないのです。
そこでホームページに「カンボジアの食と料理」「カンボジア情報」のコーナーをもうけ、情報を多数アップしました。このテーマでカンボジアの情報を求めて検索する人たちにアピールしました。
コンテンツ・マーケティングは即効性がありません。しかし「ボディ・ブローのように効く」と思っています。
良く見られているページは「カンボジアとフランスの関係」「カンボジアとかぼちゃ」「カンボジアのソムロー・カリー」などです。「そうなんだぁ」というカンボジアの情報として閲覧されているはずです。
(3)オンとオフで情報の連携
情報の提供はオンとオフ(デジタルとリアル)で連携して提供する仕組みにしています。
「オン」としてはオープン時からフェイスブックを利用。これにホームページを加え、さらにインスタグラムでも情報をアップ。グルメサイトは「食べログ」を利用しています。
また「オフ」として来店動機になる店頭ツールとして、ニュース専用を含め3種のA看板を設置しています。さらに来店したお客さま向けにさまざまな情報を盛り込んだ店内ツールを置いています。

4.2024年までの状況:コロナ禍明けから進化
(1)売上増加の推移
2019年の売上を100%とした場合、2022年はコロナの流行がまだ残り2019年比で77%にとどまりました。しかし2023年は134%、2024年は149%と大幅に2019年を上回りました。

(2)メディア紹介による認知の拡大
珍しい飲食店(ニッチな飲食店)の場合、お客さまが限られるなど来店客数という面で難しい状況もあります。しかし一方では「おもしろい店」としてメディアで紹介していただけるケースもあります。
「バイヨン」もシェフのレスマイ氏の紹介などでテレビ、新聞、雑誌、ネットメディアなどで多数紹介されています。
売上ということではテレビや新聞で大規模な紹介でもないかぎり、すぐにお客さまの来店には結びつかないようです。しかしメディアによる紹介が重なると、お客さまの記憶に残り来店への動機が高まると推測しています。

(3)口コミ数の増加
お客さまへのアンケート調査の結果から来店の動機として「ネットの口コミ」よりも「友人・知人からの口コミ」のほうが効果的と把握しています。しかしその計測はできません。そのため「ネットの口コミ」をひとつの計測尺度と考えています。
食べログの口コミ投稿数を年別にしてみると、ここ2年で上昇しています。来店客数の増加によって口コミが増えていると考えています。しかしネットの口コミを増やすことが来店客数の増加につながるかは今のところわかっていません。

5.まとめ。「新メニュー」と「たくさんの施策」で「なにかやっている店」
ここまでお話ししたもの以外では、お客さまアンケート・インタビュー、近隣店・競合店調査、売上・商品別販売分析などもやっています。
うまくいかなかった施策もたくさんあります。PR活動、お客さまへの手紙、ネットでバズらせる施策などなどなど…。
「新メニュー」はどんな店でも、どんな企業でも売上アップに貢献があるものと思います。「たくさんの施策」は失敗のほうが多いかもしれませんが、やってみることが重要と思っています。それによって「この店、いつもなにかやっている店だね」とお客さまに感じてもらうことが店の魅力になると思っています。