ニッチな飲食店について考えるためには、まず分類が必要です。
ニッチ・ビジネスについては山田英夫の『競争しない競争戦略』に詳しく述べられています。このなかでニッチ戦略はタテ軸を質的限定、ヨコ軸を量的限定として10種に分類されています。
この分類方法でニッチな飲食店について分類してみました。しかしこの方法では、ニッチな飲食店の各分類の数にかたよりができて、うまくフィットしません。詳しくは別ページでご覧ください。
ということで、新たな分類手法を考えてみました。
1.顧客と市場性の2軸で考える分類手法
マーケティングで重要な視点であるお客さま(顧客)と、ビジネスの広がり(市場性)の二つの軸で分類することにしました。これによって8つのカテゴリーが浮かびあがってきました。
●タテ軸は顧客の限定性
「お客さまはいったいだれなのか」はマーケティング活動をしていくうえでもっとも気になることです。
一般の飲食店の場合、比較的広い範囲で考えることが多くなります。ハンバーガーショップやファミレスなどを考えるとわかります。ワイワイの子どもたち、にぎやかなママ友、おしゃべりしたい高齢者。手ごろな価格なので多くのお客さまに来てもらう必要があります。
しかし、ニッチである場合には、お客さまは限定されてきます。ビーガンやハラルのように「どうしても、それを食べてはいけない」というルールをもつ人もいます。
これが顧客の限定性です。タテ軸の上側は顧客の限定性が強く、下にいくほど限定されません。
●ヨコ軸は市場の成長性
市場の成長性も重要な基準です。飲食の市場は3つでできています。家庭で食べる「内食(うちしょく)、総菜やお弁当などの「中食(なかしょく)」と飲食店などの「外食(がいしょく)」の三つの市場です。ここでは外食について考えます。
コロナ禍では外食市場は減少。かわりに内食と中食は増加しました。しかし、3つの市場全体では人口減少や高齢化などでこれから減少していくはずです。
それでも外食市場も単純に減るわけではないはずです。新しい飲食店ビジネスの出現で大きく変わる場合もあります。牛丼ビジネスのように世界市場へと成長するビジネスもありました。市場としての減少や成長性は分類を考えるうえで重要な尺度です。
これが市場の成長性です。ヨコ軸の右側は成長性があり、左側は成長性が乏しいものとします。
ということで、タテ軸を顧客の限定性、ヨコ軸を外食市場でのの成長性として、ニッチな飲食店について、ここまで集めてきたものを8つのカテゴリーに分類してみました。図のようになります。
2.ニッチな飲食店の8つのカテゴリー分類
8つのカテゴリーとは健康、提案、特定、愛好、時間、地域、成長、曖昧です。カテゴリーと言うとわかりにくいかもしれません。たとえば健康は「ニッチな飲食店の健康ニッチ戦略」ということでいいと思います。以下でざっとの説明です。
①健康:健康食品はたくさんあるのに「健康飲食店」はない
健康が現代の飲食にとって大きなテーマであることについては説明不要ですね。市場性は大きいと思います。また、病気をかかえる人など健康的な飲食を必要とする人(顧客)も限定されます。
スーパーやドラッグストアには健康食品があふれているのに、街を歩いても「健康飲食店」はありません。健康が注目されているにも関わらず飲食店ビジネスは後ろ向きです。健康ニッチ戦略ならうまくいくかもしれません。(詳細は別ページ)
②提案: 新しいことを試す人(イノベーター)のための飲食店
新しいメニュー、新しい食材、新しいサービス方法など、飲食に限らず社会は新しい提案で前進します。
世の中にはイノベーター(革新者)と呼ばれる人たちがいます。社会学者でイノベーター理論の提唱者エベレット・ロジャーズは、先行する2.5%の人をイノベーターとしています。新しいことはイノベーターが試すことによって世の中に広まっていきます。
提案とは社会の課題を解決するアイデアです。将来、食肉などのたんぱく質の供給が不足することを見込んで植物タンパクを使ったメニューを出す店が出てきています。また、昆虫食の店が2019年にオープンしました。新しい食材によるメニューを提供するお店はニッチな飲食店です。イノベーターが試すことによって市場が大きく成長する可能性があります。(詳細は別ページ)
③愛好:オタクというコンテンツで広がる飲食店
アニメ、マンガ、スポーツ、鉄道などを愛好するたちのための飲食店です。余暇に関する飲食店です。マズローの5段階欲求説にある生理的欲求、つまり食欲の満足とは異なる価値が必要です。
アニメやマンガなどのオタク市場は世界で拡大しています。日本のお家芸でもありますね。ニッチな飲食店ならここに注目すべきです。(詳細は別ページ)
④特定: 日本のラーメンを食べたいのに食べられない人たちがいる
限定された顧客がもつ、強いニーズに応える飲食店です。たとえばムスリム(イスラム教の人々)観光客のためのハラールラーメン店です。浅草など都内に数店舗あります。また、気候変動への危機感によってビーガンやベジタリアンが増えています。この人たちのための飲食店が必要です。(詳細は別ページ)
⑤時間:過去はだれにも追い越せない。競争のないニッチな飲食店
元祖メニューの店なら、一度は食べてみたいと思うお客さまがいます。競合店がこの店に勝とうと思っても絶対に勝てません。時間をさかのぼることはできないからです。
60代以降、ヒトは過去を振りかえって「清算」する必要性が生まれます。老舗やレトロのお店が必要です。顧客は時間の経過とともに、一定数が残念ながら抜けて、反対に一定数が新しく入ってきます。いつの時代にもお客さまが存在することになります。安定したニッチ・ビジネスだと思います。(詳細は別ページ)
⑥地域:グローバル化する社会。「こんな国あったかな」の飲食店
『競争しない競争戦略』でボリューム・ニッチ戦略を説明しました。世界の国からやってきた珍しいレストランがこれにあたると思います。ヒマラヤの仏教国ブータンの料理店、西アフリカのトーゴの料理店、バルカン半島のクロアチアの料理店。ニッチな飲食店ですね。
顧客は「この国の出身」あるいは「珍しいので行ってみたい」という人たちです。食文化の違う国の料理です。一般の日本人が親しみを感ずる料理になるまでには時間がかかりそうです。(詳細は別ページ)
⑦成長:ビッグビジネスのはじまりはニッチな飲食店から
牛丼の「吉野家」は100年前にはニッチな飲食店でした。同じように、いまや世界の巨大産業であるハンバーガーもニッチなメニューからスタートしました。メニュー(商品)の完成度を高め、チェーンビジネス、24時間営業などで多くのお客さまを獲得して成長しました。ニッチな飲食店は大きなビジネスへと成長する可能性があります。(詳細は別ページ)
⑧曖昧:まだわからない。「ニッチな飲食店のような飲食店」
そうめん屋はニッチな飲食店であっても「曖昧」だと思っています。確かにニッチです。しかし、お客さまが限定されていません。「どうしてもそうめんじゃなきゃイヤだ」という人は少ないからです。
市場として、めん類のカテゴリーでほかのお店との競争になっています。うどん、そば、ラーメンなどです。差別化のためのニッチなら独自のポジションとは言えません。成長性にもあまり期待がもてません。
ニッチな飲食店ではないかもしれません。しかし、実は、ここにたくさんのニッチのような飲食店があります。もしかしたら可能性があるのかもしれません。なので曖昧というカテゴリーにしておきます。(詳細は別ページ)
ニッチな飲食店をこんな方法で分類すると、なんだか少し見えてきました。こうしてみると「この部分では、こんな飲食店があってもいいはずだ」というものも見えてきます。新しいニッチな飲食店のビジネスが見えてきます。
それぞれの詳しい内容は「ニッチ飲食店構想」「ニッチ飲食店事例」のカテゴリーでご覧ください。
<参考文献>
山田英夫『競争しない競争戦略 消耗戦から脱する3つの選択』日経BPマーケティング 2015
2022年1月10日掲載 2024年6月18日改稿