The marketing for niche restaurants

ニッチな飲食店をマズローの5段階欲求説で考える

 少し長く、またちょっとカタくなりますが、ニッチな飲食店の未来のあるべき姿について考えてみました。結論は、ニッチな飲食店は食べる満足のためのお店ではなく、人や社会が望むことを満足させる飲食店になるべきと考えます。

1.「おなかいっぱい」だけが食事ではない。食べる価値のひろがり

 ヒトは毎日食事をします。しかし、お腹を満たすことだけが必要なわけではありませんね。友だちや家族と楽しい時間を過ごすこともあります。また、新しい発見をしたい、健康なカラダになりたい、ときには嫌いな上司とのつきあいという食事もあります。食べることの価値はたくさんあります。

 2020年の現在はコロナ禍です。飲食店ビジネスはとても厳しい状況です。閉店する店もでてきています。そうでなくとも、飲食店はいつも競争です。オープンして1年もしないうちに閉店する店も数多くあります。すぐ閉店してしまうようなお店は、お客さまにとって必要なお店ではないということです。お店にお客さまがこない。それはマーケティングがうまくできていないともいえます。

 お客さまは、おいしいものを安く、あるいはお腹いっぱいに食べたい人ばかりではないはずです。むしろ、そうではない人が増えてきています。テレビの取材があるお店、グルメサイトで点数の高いお店が評価されています。けれども「おいしい、すごい料理」というひとつだけの尺度は時代にあっていないと思います。お客さまが望んでいることはもっと先にあるのではないでしょうか。「みんなと同じ」ではない一人ひとりが異なる多様化社会になりつつあります。

 たとえば健康についてです(別のページに記事があります)。国内の加工食品産業の市場規模は約22兆円です。最近、増えてきている機能性表示食品やドラッグストアで売っている健康食品の市場は合計で約2兆円です。誤解を恐れずに大雑把にいうと、世の中の約1割の人は食べることについて「健康」を強く意識しています。

 しかし、街を歩いても健康志向の飲食店を10店に1店の割合で見つけることはできません。むしろ、「ごはん大盛、おかわり無料!」とか「60分チューハイ飲み放題」など健康とは、ほど遠い状況です。「ビールを毎日たくさん飲みたいから、健康食品を飲んでいる」という人もいるのかもしれません。

 私の印象ですが、飲食店ビジネスの多くの人は、「よそのお店と同じもの」が好きなのかもしれません。タピオカドリンクのお店もたくさんできました。そして、たくさんなくなりましたね(^_^)。売りたいことが優先的。お客さまのことを考えるマーケティングにあまり興味がないのかもしれません。

2.おなかいっぱいの食事。そのもう一つ先にあるもの

下記の図をご存じの方も多いと思います。モチベーション理論として有名な心理学者マズローの「5段階欲求説」です。ヒトは基本となる生理的欲求が満たされると安全や社会的な欲求を満たすことに関心が移っていきます。日本も世界の国ぐにも豊かになりました。いつも満腹だけを求めているわけではありませんよね。

 最近、無農薬野菜とかオーガニックなどの食材を使ったお店がでてきました。ペットといっしょに入れるお店なども増えてきています。食事をするたびに開発途上国に寄付が行われる社員食堂などもあります。新しい考え方の飲食店は増えています。なぜ新しいタイプの飲食店が増えるのかは、マズローの考え方をもとにすると理解しやすいと思います。心理学なので実証されているわけではありません。しかし、考え方のヒントになると思います。

欠乏動機 1.生理的欲求 食物、水など人間の生存に関わる本能的な欲求を満たすこと
2.安全欲求 安全・安心な状態、危険を回避したいという欲求を満たすこと
3.社会的欲求 集団や社会への所属、他者との愛情を充足する欲求を満たすこと
4.尊厳の欲求 他者からの尊敬、他者よりも優れていると認識したいという欲求を満たすこと
成長動機 5.自己実現欲求 自己の向上や潜在的能力を実現したいという欲求を満たすこと
3.5段階の欲求にニッチな飲食店を当てはめてみる。なんとか入ります

 2020年代の人びとは、生理的欲求の段階は超えていると思います。「空腹でたえられない」なんていう経験はもうありません。もはや、安全や社会的欲求など次の段階に進んでいると考えられます。

 マズローの説では欲求は順に上に昇っていくと考えるようです。しかし、順にではなく多様化していると考えたほうがよさそうです。多様化したお客さまの要求に応えるためにはきめ細かい対応が必要です。市場の細分化です。細分化されたカテゴリーの飲食店が必要になります。大手の外食チェーン店のような、大量生産で同じものを多くの人に食べてもらうというビジネスモデルでは、多様化するお客さまの要望にこたえるのは難しいと思います。

 ニッチな飲食店が必要になります。細分化したカテゴリーの飲食店。別の言葉でいうと、ちょっと変わった飲食店です。明確なコンセプト、個性的で小規模な飲食店こそ、これからの社会のために必要な飲食店です。

 ちょっと無理矢理ですが、ニッチな飲食店を5段階に押し込んでみました。なんとか入りますねぇ(^_^)。空腹を満たすだけの時代ではないといいましたが、それでも食欲を満たすためのお店は、やはり中心にあります。店舗数を具体的に検証していませんが、やはり生理的欲求を満足させるお店が多く、階段を昇るごとに店舗の数が少なくなっていると思います。

 たとえニッチな飲食店であっても生理的欲求を満たすお店では厳しい状況だと思います。世の中のほぼすべてのお店がここで戦っているからです。競合ばかりということです。

欲求段階

カテゴリー

ニッチな飲食店の業態例

生理的欲求

 

 

特定地域飲食店  

各国料理専門郷土料理専門などの飲食店    

特定料理専門飲食店

牛肉専門、みそ汁専門などの飲食店       

限定食材飲食店  

山芋専門、パクチー専門などの飲食店      

安全欲求

 

 

健康志向飲食店  

健康飲食専門、野菜専門などの飲食店      

疾患症状対応飲食店

生活習慣病予防、アレルギー対応などの飲食店  

特定目的飲食店  

ビーガン料理ハラール料理などの飲食店     

社会的欲求

 

愛好家向け飲食店 

スポーツファン、鉄道ファンなどの飲食店    

承認欲求型飲食店 

SNSに映える飲食店など            

尊厳の欲求

 

高級飲食店    

ミシュラン三星レストランなどの飲食店     

体験型飲食店   

イベントやアートのある飲食店         

自己実現の欲求

参加型飲食店   

クラウドファンディング支援、寄付型などの飲食店

4.次の時代のニッチな飲食店の姿

 ニッチな飲食店が、飲食店ビジネスの次の時代を担うと期待しています。マズローの5段階欲求説の安全欲求以降にこたえるニッチな飲食店についていくつか考えてみます。

 これから健康に関連する飲食店が増加するはずです。前述しました。国民医療費は現在43兆円を突破しています。支払っているのは、個人や健康保険組合ばかりではありません。国や自治体がこの費用の約40%を負担しています。増加する国民医療費に国や自治体は悩んでいます。

 高齢者はこれからさらに増加します。病院やお医者さんのお世話になる前に、日ごろから健康的な食事に気をつけることが大切です。しかし、「ヘルシー」は、おいしくないと感じる人もいます。「だから健康食品のサプリメントをボリボリと飲んで、外でコッテリのトンコツラーメンを食べるんだ」ということがあるのかもしれません。しかし、そうであっても、これからさらに健康への関心は高まります。国や自治体、健康保険組合からの圧力(?)もあると思います。健康志向への傾向は高まっていくことになるはずです。

(1)安全欲求。健康志向のための飲食店

 一方、外食産業では、この取り組みが遅れています。前述しましたが、お店のカンバンは、大盛無料に食べ放題の文字が踊っています。低糖質メニュー、野菜たっぷりメニューなども出てきていますが、組織的な取組はできていません。健康をテーマにした飲食店ビジネスはまだ数えるほどです。国民医療費の増加を押さえたいと考える国や自治体の意向も高まり、これから官民そろって外食産業での健康への取り組みが進むと思います。

(2)社会的欲求。愛好家向けの飲食店

 趣味を愛する人たちのためのお店などです。たとえば、サッカーファンのためのスポーツバー、鉄道ファンのためのお店などです。 猫カフェやフクロウカフェなど癒しのためのお店もありますね。大好きなキャラクターをテーマにした飲食店もあります。お店の提供するメニューだけでなくサービス、雰囲気、さらに来店するほかのお客さまなどに価値があります。

 「昭和レトロ」がトレンドだと聞きました。ニッチな飲食店でいうと古民家レストランやなつかしい純喫茶などです。お客さまは中高年層。このカテゴリーはちょっと面白い特徴があります。年月とともに市場が生まれ、やがて減少し、なくなることです。あと20年ほどすると「平成レトロ」ブームがおこるのは確実です。人びとが少し高齢化して、お客さまが生まれます。その後、お客さまが老齢になられて亡くなられるということですね。
 ニッチな飲食店として大きな成長はありません。しかし、お店とお客さまが一定的に必ず存在するというのはビジネスとしての安定性を感じます。

(3)尊厳の欲求。自己実現の欲求。これからの飲食店

 仲間から認められたい、尊敬を集めたいという気持ちを満足させる飲食店です。私は、あまり関係ありませんが、ミシュランの三星レストランのようなお店です。ここでは、おいしいとか健康的であるということはあまり気にしていません。「スゴイ」とまわりから認めてもらえることが目的だからです。

 最も上位にあるのが自己実現の欲求です。ニッチな飲食店がこれにどう関わるのかは、いまのところよくわかりません。自己実現のニッチな飲食店だと思うお店をまだ見かけていませんので。

しかし、これから先、経営参加などのような形で自己実現の欲求を満足させるお店ができるのかもしれません。今後、このカテゴリーの飲食店が増えると、人や社会にとって素晴らしいことなのかもしれません。

5.次の時代のニッチな飲食店のための3つのアイデア

 ニッチな飲食店として成長していくこと。難しい課題ですが、解決するには以下の3つの考え方が大切だと思います。

(1)お店の特徴=ニッチをわかりやすくする

  お店の特徴をよりわかりやすくすることです。経営学ではミッション=使命などともいいます。ニッチな飲食店であれば、お店のいう「ニッチ」がわかりやすければいいのだと思います。なかでもメニューは最もわかりやすいものです。それを食べればこの店がなんの店かすぐわかりますから。そのほか、お店の名前、雰囲気、イメージなども特徴を良くあらわします。全体のイメージやお客さまに伝えるべきことなどをまとめて「ブランド」ともいったりましす。ニッチをわかりやすくする。一丁目一番地。ここが大切です。
 

(2)お店の利益をしっかり確保する

 ニッチな飲食店では十分な利益率を確保することが大切です。利益率をしっかりと高めることは、ニッチ・マーケティングの核心です。

ニッチな飲食店であることのメリットは強く差別化ができることです。これによって価格競争に巻き込まれずに、利益の確保ができます。おとなりのお店と同じようなハンバーグを売るのなら価格の勝負になってしまいます。店主が長年かけて開発したオリジナルハンバーグなら価格は自分で決められます。

 ニッチな飲食店は広くたくさんのお客さまを集めることはできません。このお店だけしか提供できないものを適正な価格と利益率で販売すること。これによって存在することができます。競合となるお店がないのに低価格や低い利益率で自分を苦しめる必要はありません。

(3)お店の独自の情報を提供する

 独自の情報をお客さまに伝えることです。ニッチな飲食店だけがもつ深い情報があれば、お客さまとの結びつきも強くなります。私はモチロンそうですが、人はモノゴトをすぐ忘れてしまいます。昨日どこのお店でランチを食べたのかなど覚えていません。今朝のごはんもですか(^_^)。それはともかく、ニッチであって深い情報があれば記憶に残ります。覚えていれば「また行きたい」ということになります。

 ニッチであれば検索でも上位に上がりやすくなります。さらに口コミがあればWebサイトも見てもらえるでしょう。新しいメニューがあれば来店してもらえることにもなります。SNSなど無料でさまざまな機能をもつツールができています。お客さまにきてもらうために独自の情報提供について工夫しましょう。

6.まとめ:マズローの5段階欲求説で考えるとニッチな飲食店の未来が少し見える

(1)生理的欲求を満たすだけの飲食店のあり方を見直す時がきた
(2)ニッチな飲食は人や社会の望みをかなえる飲食店になる
(3)ニッチな飲食店なら使命、利益、独自の情報を大切にする

 いつも「ニッチ、ニッチ」とつぶやきながら歩いています。ニッチ教の狂信者です。ニッチな飲食店が次の時代の飲食店ビジネスを創っていくと信じています。「ニッチ、ニッチ」と毎日つぶやくと幸せになれるかもしれませんよ(^_^)。

(2019年1月掲載、2020年11月改稿)

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